最高の演出
健康には自信があった波乗り駐在員の俺も、ついに島に蔓延している風邪に倒れた。症状はやはりかなりの高熱、体温計など持ってないので何度くらい熱があったのか分からないが、夜中に部屋の中で幻覚のようなものが見えたくらいだから相当だったのだろう。
食欲などまったくなかったが何か食べねばならぬと口に入れたものは数日前に買って置いたバナナ数本とヨーグルトとインスタント味噌汁くらいだった。もともと体格がいい方ではなくすぐ痩せる体質なので2日寝込んだだけで随分頼りなくなってしまった。
ちょうど俺が風邪に倒れたころに、俺の相方マグロ・カパック隊員の体調が回復に向い、そんな彼にコロさんからの思いがけずの吉報が舞い込んできた。島ではほとんどお目にかかることのできないあの幻のロブスターが手に入ったと。
ロブスターパーティーに誘われたのはいいが、まともに立って歩けないほどの状態でロブスターどころではなかった。3年島にいる俺も2回しか口にしたことがない最高に貴重な食材、それがよりによって俺が最悪の状態の時に訪れるとは。ここまで運が悪いということがあろうか。俺は熱と戦うだけでなく、ロブスターの存在をひたすら忘れようと努力する長い夜を過ごすことになってしまった。
熱と雑念で熟睡などできぬまま迎えた朝だったが、意外にすがすがしいものだった。人生いろいろあるさ、ロブスターのことはもう諦めて今日からまたしっかり働こうと気持ちを立て直していざオフィスへ来てみると、なんと、俺を一晩中苦しめ続けたロブスターが今そこにあるではないか!何という存在感、それもおいしそうに茹でられ、トマトとキュウリとサツマイモの添え物つきできれいに皿に盛られた状態で、ラップできちんと包装された姿で。
部屋に差し込み始めた朝日がロブスターを照らし、その赤色をさらに鮮やか染めていた。どこからかオペラの「アベ・マリア」が聴こえたような気さえした。あれほど忘れようとしていたロブスター、でもやっぱり忘れ切れなかったロブスター。なんという大きさ、なんという上品な味。生きてきて良かった、風邪を乗り切って良かった。あの苦しみがなかったらここまでロブスターの味を堪能することはできなかったろう。運命は俺を見捨てはしなかった。それにしても運命はなんという粋な演出をしてくれることだろうか。
ありがとう、コロさん。
ありがとう、マグロ・カパック隊員。
食欲などまったくなかったが何か食べねばならぬと口に入れたものは数日前に買って置いたバナナ数本とヨーグルトとインスタント味噌汁くらいだった。もともと体格がいい方ではなくすぐ痩せる体質なので2日寝込んだだけで随分頼りなくなってしまった。
ちょうど俺が風邪に倒れたころに、俺の相方マグロ・カパック隊員の体調が回復に向い、そんな彼にコロさんからの思いがけずの吉報が舞い込んできた。島ではほとんどお目にかかることのできないあの幻のロブスターが手に入ったと。
ロブスターパーティーに誘われたのはいいが、まともに立って歩けないほどの状態でロブスターどころではなかった。3年島にいる俺も2回しか口にしたことがない最高に貴重な食材、それがよりによって俺が最悪の状態の時に訪れるとは。ここまで運が悪いということがあろうか。俺は熱と戦うだけでなく、ロブスターの存在をひたすら忘れようと努力する長い夜を過ごすことになってしまった。
熱と雑念で熟睡などできぬまま迎えた朝だったが、意外にすがすがしいものだった。人生いろいろあるさ、ロブスターのことはもう諦めて今日からまたしっかり働こうと気持ちを立て直していざオフィスへ来てみると、なんと、俺を一晩中苦しめ続けたロブスターが今そこにあるではないか!何という存在感、それもおいしそうに茹でられ、トマトとキュウリとサツマイモの添え物つきできれいに皿に盛られた状態で、ラップできちんと包装された姿で。
部屋に差し込み始めた朝日がロブスターを照らし、その赤色をさらに鮮やか染めていた。どこからかオペラの「アベ・マリア」が聴こえたような気さえした。あれほど忘れようとしていたロブスター、でもやっぱり忘れ切れなかったロブスター。なんという大きさ、なんという上品な味。生きてきて良かった、風邪を乗り切って良かった。あの苦しみがなかったらここまでロブスターの味を堪能することはできなかったろう。運命は俺を見捨てはしなかった。それにしても運命はなんという粋な演出をしてくれることだろうか。
ありがとう、コロさん。
ありがとう、マグロ・カパック隊員。